【日本酒の基礎?講義】日本酒の味・香りと全国新酒鑑評会

2024/06/25
by 成子 和弘

いつも弊社ブログをご覧いただき誠にありがとうございます。

日本酒に関する知識を少しでも多くの方に知っていただきたいと言う思いを込めて執筆しています。
明日の日本酒ライフにぜひお役立てください。

今回は、マニアックな内容に入りたいと思います。
ズバリ、日本酒の味・香りです。

基本的に日本酒は美味しいか美味しくないかを軸に飲んでいただければそれで結構です。
ですが、味や香りの種類を知ると、より深く味わえ、日本酒の違いが鮮明になってきます。

味・香りの具体的な内容に入る前に、そもそも日本酒はなぜフルーティーな香りがするのかと言うことについても言及しておきます。

たまに蔵見学にきた方に聞かれます。
「日本酒は原料が水と米だけなのに、なぜあんなフルーティーな香りがするのですか?」と。

皆様はご存知でしょうか。日本酒の香りの正体を…

詳しくはまた日本酒醸造の基礎講義編でふれたいと思いますが、結論から言うと、酵母菌(イースト菌)が香りを生成してくれます。
つまり、酵母菌が変わればその日本酒の香りも大きく変わると言うことなのです。

もちろん、日本酒にはフルーティーな香りだけではなく、さまざまな香りが存在します。
蔵の環境や製法、熟成度合い等でも香味は変化します。

では、香りの内容についてみていきましょう。

日本酒の香りには、大きく分けて良い香り(芳香)と異臭(オフフレーバー)があります。

まずは芳香についてみてみましょう。

芳香の代表例は、吟醸香です。いわゆる、フルーティーな香りっていうやつですね。
吟醸香には大きく二つ(最近は新たなものも登場しています)あります。

1つ目が、酢酸イソアミル(サクイソ、イソ系)という吟醸香で、いわゆるバナナのような香りのものです。
酢酸というだけあって、酸味もあり、バナナの香りと酸味が広がります。

2つ目が、カプロン酸エチル(カプエチ、カプ系)という吟醸香で、いわゆるリンゴのような香りのものです。
最近ではかなりリンゴの香りの強いもの(協会1801号酵母)が主流になりつつあります。
上立ち香(前回のブログ参照)から香りが華やかです。

要するに、フルーティーな香りは大きくバナナ系かリンゴ系に分けられると言えます。(もちろん一概には言えませんが)

最近では酵母をブレンドをしているお蔵さんも増えてきており、リンゴ系とバナナ系の両方の香りを楽しめるものも出てきています。

また、上記以外に、カプリル酸エチルと言う香気成分も検出されだしています。
カプリル酸エチルはパイナップルのような香りです。
筆者も飲んだことがありますが、パイン飴を溶かして日本酒にしたような味わいです。

さらに、4MMPと言う香りも出てきています。
いわゆるマスカットのような香り成分です。
まだ詳しい発生要因はわかっていませんが、お米由来だと考えられています。

このように、主流はバナナ系・リンゴ系そしてそのブレンドですが、それ以外にもさまざまな吟醸香があります。
ぜひ、上立ち香や含み香で吟醸香を探してみてください。
熟成酒では吟醸香は減少してしまいますので、できれば新しいお酒でチェックしてみてください。

ちなみに、弊社は大吟醸純米吟醸など、吟醸以上のお酒はリンゴ系、特別純米などそれ以外はバナナ系の香りの酵母を使っています。
ぜひ飲み比べてみてください。

では、次に、異臭(オフフレーバー)について解説します。

オフフレーバーには様々なものがあります。
基本的には管理不足によりついてしまうものが多いです。

代表的なものを見ていきましょう!

・アセトアルデヒド:木香様臭(きがようしゅう)で木や草などの青臭いとわれる香り
 アル添(発酵した醪にアルコールを添加すること)時に発生すると考えられています。
 特に、まだアルコール発酵が旺盛な時に添加すると出やすいと言われています。

・イソバレルアルデヒド:いわゆる生老香(なまひねか)と言われるムレた様な刺激的な香り
 生酒を常温で貯蔵しておくとついてしまいます。

・ジアセチル:昔はつわりかとも呼ばれていた、赤ワインやヨーグルト、バターのような香り
 あまりに搾るタイミングが早いと発生してしまいます。
 低アル系のお酒が甘酸っぱいものが多いのはこのジアセチルが要因と言われています。

・ジメチルポリスルフィド(DMTS):劣化臭(いわゆる老香)の構成成分で、沢庵漬け様の臭い
 開栓後、常温で放置しておくとついてしまいます。
 フレッシュな感じが損なわれ、甘さ控えめの沢庵のような香りになります。

まだまだたくさんありますが、出会う可能性の高いものは上記となります。
これらを意識して飲むことで、今まで感じることのなかった香りを感じることができるようになります。

突き詰めて香りを勉強したい方は、日本醸造協会様が発売している清酒官能評価標準試薬を購入してみるといいと思います。
また、酒類総研様が清酒のフレーバーホイールというものを作成してみます。
お酒を飲む際に眺めてみましょう。

では、次に味についてみていきましょう。

味については、舌の上の味(甘味・辛味、酸味、苦味、渋味、旨味)と口あたりと後味をみます。

まずは舌の上の味についてみてみましょう。

・甘味:お酒の甘さ。主に舌先で感じられると言われている。
 では、お酒における辛口とはなんでしょうか? 唐辛子のように辛いのでしょうか?
 結論から言うと、甘くないお酒=辛口なのです!
 なので、甘味を判断する=辛味を判断すると言うことになります。

・酸味:お酒の酸っぱさ。主に舌の両脇で感じられると言われている。
 昨今では、様々な方法で酸度を高くしているお酒も販売されています。
 また、ステレオタイプになってしまう可能性もありますが、一般的に生酛・山廃は酸度が高くなる傾向にあります。
 酸味がいまいちわからないと言う方はそういったお酒を飲んでみましょう。

・苦味:お酒の苦さ。主に口の奥の方で感じられると言われています。
 吟醸等淡麗なお酒では、どうしてもアルコールからくる苦味が目立ってしまいます。
 その苦味をマスクするために甘味を利用するのです。
 甘味がある程度あると苦味をマスクして目立たなくしてくれます。
 ですので、全国新酒鑑評会に出品されるようなお酒はある程度甘みのあるお酒が多いです。
 苦味がなくても締まりがなくなりますが、多すぎると不快に感じてしまいます。

・渋味:お酒の渋さ。一般的には苦渋(にがしぶ)とひとくくりにされることが多いです。
 渋柿をそのまま食べたことのある方にはわかるあの渋さです。

これらをまとめて甘・酸・辛・苦・渋(かんさんしんくじゅう)と言います。
日本酒は突き詰めると、上記五味のトータルバランスになってきます。
どれかが突出してても悪目立ちしますし、なさ過ぎても水っぽくなってしまいます。
これらのバランスを取るのが杜氏の仕事と言っても過言ではありません。
もちろん、どれかをあえて突出させてそれを個性として販売しているお酒もありますので、バランスを取ることが全てとは言い切れないですが。

そして、最近は上記五味に加えて、旨味も注目されています。
某Youtuberにより最近話題になった「味の素」。これこそまさに旨味成分なのです。
ですので、旨味の多いお酒を体感したければ、お酒に味の素を入れて飲んでみてください。

一般的に、山廃系は旨味も強いと言われています。

これらが、舌の上で感じる味わいです。

次に、口あたりをみてみましょう。

まるい↔︎あらい、軽快↔︎重い、なめらか↔︎くどい等で表現します。
淡麗か濃醇か、新酒か古酒か、製法等により大きく異なるところであり、好みも分かれるところです。
一般的に新しいお酒ほどあらく、軽快でなめらかな傾向にあります。(あくまで一般論)
古くなればなるほど丸くなり、おもみも増し、くどくなっていく傾向にあります。
口あたりを見ることでそのお酒の鮮度等がわかるようになります。
注意深くと言うよりは飲んだファーストインプレッションを大事にしましょう。(軽いな〜、重いな〜、あれてるな〜等)

最後に、後味についてみていきましょう。

後味とは、一般にきれと言われる部分です。
キレのいいお酒=後味がスッと消えて口に残らない味わいのお酒です。

これもタイプによって様々です。
あえて余韻を長くしているお酒等もあります。
これも好みであり、不快でなければいいのですが、余韻が長くなるとそれだけ口の中に味が残ってしまい、気になってしまう可能性が高くなります。
特に、日本酒を長期間放置しておくと、甘味が過剰に増す甘だれと言う現象が発生し、重く口に甘味が残るお酒になってしまいます。

スッとキレてくれる方が、料理の邪魔もしないですし、口残りもないので、スイスイ飲みやすいお酒になります。
弊社はキレに最も力を入れており、あと口のすっきりした商品を揃えています。
ぜひ一度飲んでみてください。

では、これらを踏まえて、全国新酒鑑評会ではどのような審査が行われ、入賞酒・金賞酒を決めているかを説明したいと思います。

全国新酒鑑評会には、入賞酒を決める予審(予選)と金賞酒を決める決審(決勝)があります。

予審では、前回のブログで説明した分析型の唎酒により評価を行います。
具体的に言うと、香りについては、吟醸香があるか、オフフレーバーがないかを中心にみられます。
オフフレーバーが少しでもついていると落選です。
日本酒はワイン等とは違い、消去法的な選ばれ方になります。
個性のあるものを積極的に選ぶのではなく、オフフレーバーのついているものを消去していく形です。
同時に味のバランスも見られます。
甘味や酸味が極端に強くないか、苦味が目立たないか等をみられます。
味もバランスが悪いと落とされます。

この方法にはメリット、デメリットがあります。
メリットは、客観的な選択がしやすいと言うことです。
個性的なものはどうしても好みが反映されるため、審査員が変われば結果も変わってしまいます。

一方、ダメなものを落とす方式であれば、審査員が変わっても大きくブレることはありません。
つまり、審査基準が明確で客観的で、審査員の好みが反映されにくいです。

デメリットは、どうしても酒質が均一化してしまうと言うことです。
オフフレーバーをつけてはダメかつ味はバランスが命という明確な基準があるため、どのお蔵さんもオフフレーバーをつけないお酒かつ味のバランスの取れたお酒を出品するため、没個性的なお酒が出揃うことになります。
要は変わり映えのないお酒が出品されるということです。
蔵の個性は全く生かされないということになります。

要するに、全国新酒鑑評会は、美味しいお酒を選ぶ大会ではなく、オフフレーバーのついていない味の整っているお酒を選ぶ大会といえます。

ただし、決審は違います。
決審は審査員20名が3点法で、1(特に良好)、2(良好)、3(1,2以外)の点数をつけ、その平均点で金賞か否かを判断します。

すなわち、点数が低いほど優秀ということになります。

つまり、決審は嗜好的な唎酒という側面が大きくなります。
予審で分析的唎酒により篩にかけられているため、予審を通過したお酒がいいか悪いかの判断になるからです。

この味の均一化は賛否両論ですね。
皆様はどう思われますか?
個人的には、蔵の個性を競う品評会があってもいいと思いますね。

以上のように、日本酒の味・香りにはとても奥深い世界が広がっています。
各蔵がどういった香りでどのような味わいにするかを絶えず考え、日本酒というキャンバスに描いているのです。
そういったお蔵さんの思いに馳せて日本酒を飲んでみるのも、また違った楽しさがありますよ。

またも長くなってしまいましたね笑
ぜひみなさんの好きな香りや味があればコメントで教えてください。

次回は、そもそも日本酒にはどのような種類があるのかということについて、ラベルの用語解説で出てきたものも含めて改めて解説したいと思います。

お楽しみに!

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